錬金術師の隠れ家

書評など。キーワード:フランス科学認識論、百合、鬼頭明里 https://twitter.com/phanomenologist

寄稿:若者は『きたかわ』を読むー『きたない君がいちばんかわいい』が青少年に読まれている実情についての分析

東京大学百合愛好会のnoteにて以下寄稿しました。よろしく。 若者は『きたかわ』を読むー『きたない君がいちばんかわいい』が青少年に読まれている実情についての分析 https://note.com/utokyo_yuri/n/n80c72bfd7731

百合姫に狂い咲くデカダンス まにお『きたない君がいちばんかわいい』(2019-2022)

あらすじ 瀬崎愛吏と花邑ひなこ。クラスではグループもカーストも違い接点のない二人だが、彼女たちには人には言えない秘密があった。それは、愛と打算と性癖に満ち溢れた少女たちの秘め事……https://ichijin-plus.com/comics/2416091119671 きたない君がいち…

錦木千束には「外」がないー『リコリス・リコイル』の物語上の致命的な欠陥について

2022年の7月から9月にかけて放送されたアニメ『リコリス・リコイル』は少女がガンアクションを行うというもはやありふれた設定ではあるものの、銃描写の精緻さや主人公バディの親密になっていく描写、そして主人公の寿命をめぐる視聴者の精神を揺れ動かす…

ジャン=ジャック・ヴュナンビュルジェ、川那部和恵訳『イマジネール』(2008,2020;邦訳 2022)

ガストン・バシュラールの想像力論に感銘を受けて、「想像力」の哲学を現代日本文化に適用した著作がないか探したことがある。そこで気づいたことなのだが、「想像力」と題しているのに「想像力」についての理論的検討が見られない著作が数多く見受けられる…

漫画評:茶番の皮を被った英雄譚。伊藤いづも『まちカドまぞく』(2014〜)

まちカドまぞく 1巻 (まんがタイムKRコミックス) 作者:伊藤いづも 芳文社 Amazon 本作は一見すると、『天体戦士サンレッド』(2005〜2015)のような「なんちゃって勧善懲悪もの」(論者の造語)のようにみえる。『天体戦士サンレッド』は正義のヒーローが悪…

最終話までみた私が『白い砂のアクアトープ』を警戒していた百合ヲタに告ぐ。大丈夫だ。

【Amazon.co.jp限定】白い砂のアクアトープ Blu-ray Vol.3 (1~3巻連動購入特典:LED台座付きオリジナルA5アクリルボード引換シリアルコード付) 伊藤美来 Amazon P.A.WORKS制作の2021年夏から2クールにかけて放送されたアニメ『白い砂のアクアトープ』は、通…

仲谷鳰『やがて君になる』第1話を読んでみた。

筆者の所属する東京大学百合愛好会の催し的なもので、仲谷鳰の『やがて君になる』の第1話を読むというのがあったので、今回個人的に感じたことを記事にまとめてみることにした*1。 あらすじ:恋する気持ちのわからない小糸侑は、中学卒業の時に仲の良い男子…

準異邦的存在としての佐藤聖ーMarta Fanasca "Tales of lilies and girls’ love. The depiction of female/ female relationships in yuri manga"(2020)

本稿(邦名:「百合物語とガールズ・ラブ。百合漫画における女/女関係の描写について」(拙訳))では、2000年代以降に発展した「百合漫画」ジャンルの間メディア性・間テクスト性の分析が行われる。つまり、「百合漫画」が戦前の吉屋信子やエス文化などの少…

(読書)『ジェンダー・トラブル』におけるフーコー批判ーエルキュリーヌ・バルバンをめぐって

※本論は『ジェンダー・トラブル』の邦訳旧版(1999)から引用 エルキュリーヌ・バルバンは1838年に生まれてからフランスの修道院で育ち、1868年に自殺した人物です。この人物がなぜ注目されることになったのかというと、彼/女は出生時は女性として診断され…

こんな人生送りたくないなあ 『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(ネタバレ注意)

『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』を見た。本日これで2回目である。 再生産総集編「少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド」Blu-ray 小山百代 Amazon 何度も見に行くということは何度も見る価値のある映画なのだろうと思うだろう…

書評:コダマナオコ 『親がうるさいので後輩(♀)と偽装結婚してみた。』(2018)

『親がうるさいので後輩(♀)と偽装結婚してみた。』(2018、全1巻。以下、『偽装結婚』とする)は、昨今のラノベのごとくタイトルがその展開を物語っている。厳しい家庭環境に育てられた主人公の真知が、レズビアンの後輩の花の口車に載せられ、渋谷区で制度…

書評:『鬼頭明里1st写真集 Love Route』

名古屋の申し子 本人のスタンス 写真集の形式 ツッコミどころ 鬼頭明里の自己表現 将来への望み 名古屋の申し子 鬼頭明里は2014年の7月にデビューしてからわずか5年で人気声優の座に君臨した。デビュー作の『六畳間の侵略者!?』にていきなり名前付きの役…

批評の意義とは何かー『やがて君になる』第5巻を参考に

批評の意義とはなんだろうか?作品は作品だけあればよいのではないのか?そんな議題を本日9月4日、アニクリ編集者・寄稿者の方々たちと話し合ったので、個人的に思ったことを書いてみる。 私としてはこの問題設定を聞いた時真っ先に、『やがて君になる』第5…

映画感想:『劇場版 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』(2016)

8月29日に、新宿ピカデリーにて『劇場版 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』の特別特集上映があったので行ってきた。いうまでもなく、例の事件を踏まえた上映である。個人的には「そういえばまだ見てなかったな」という軽い気持ちで行…

石原孝二『「感情移入」と「自己移入」 : 現象学・解釈学における他者認識の理論 (2)(3) シェーラーの他者論 (前)(後)』

hdl.handle.net hdl.handle.net 我々はよく「あのキャラクターに感情移入して物語を読む」とか「このドラマは感情移入できなかった」という風に「感情移入」という言葉でもって偉ぶって作品を評価する。それはプロの評論家もよく使用する概念である。だが、…

ミシェル・フーコー『侵犯への序言』 DE No.13

フーコー・コレクション〈2〉文学・侵犯 (ちくま学芸文庫) 作者: ミシェル・フーコー,小林康夫,松浦寿輝,石田英敬 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2006/06/01 メディア: 文庫 購入: 2人 クリック: 9回 この商品を含むブログ (29件) を見る この論考は196…

なぜ新条アカネは男子大学生たちにブチ切れたのかーーアニメキャラクターの「性」の尊重を目指す

本稿では、2018年10月から放送中のテレビアニメ『SSSS.GRIDMAN』における敵ヒロイン新条アカネの行動の動機と、それに対する集合体としての視聴者の反応の間にある違和感について探ってみたい。 SSSS.GRIDMAN 第1巻 [Blu-ray] 出版社/メーカー: ポニーキャニ…

なぜ『やがて君になる』は「百合漫画」に分類されるのか? その証明と意義の考察

本論で一番主張したいのは第3節「「百合」から「演繹」する」のところです。時間がなければそこだけ読むことをお勧めします。 今から仲谷鳰の漫画『やがて君になる』が、なぜ「百合漫画」に分類されるのかについて考えてみたい。 やがて君になる(1) (電撃コ…

映画感想:劇場版ポケットモンスター キミにきめた!(2017)

劇場版『ポケットモンスター キミにきめた!』は、それまでの劇場版ポケットモンスターシリーズのイメージを一新しようとする試みであった。内容としては、ポケットモンスターの第1話をリメイクし、サトシとホウオウとの出会いを描くというもので、現行のファ…

傘木希美という「作品」ー『リズと青い鳥』を巡って(みぞれとは別の視点から考察する)

危機の存在するところ、救いもまた育つ。(ヘルダーリン) 「物語はハッピーエンドがいいよ」とは、映画『リズと青い鳥』のなかで希美が言った言葉であるが、これは呪いの言葉である。それというのも、物語を楽しむ者は、実際に語られる出来事を無理にでもハッ…

鎧塚みぞれという「狂気」-『リズと青い鳥』を巡って(前編)

本稿ではアニメ『響け!ユーフォニアム2』(2016)と『リズと青い鳥』(2018)を題材にして、鎧塚みぞれというキャラクターの性質、ならびにそれが作品において表す機能を考察する。特定人物に対し素朴で重い感情を向けるみぞれの心のあり方が、経験則や作者の意…

映画感想:『映画プリキュア スーパースターズ!』 ※政治的批評につき注意

今永田町が荒れている。「嘘」という名の暴風雨でボロボロである。公文書の改竄が明らかになったというのもそうだが、その責任を一切認めず、昨日言ったことと全く違う答弁を連発するホラ吹き政治家の醜悪さは子どもでも分かる。嘘をついても許されるなんて…

映画感想:『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』

『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』をみた。去年秋にやっていた『響け!ユーフォニアム』二期の内容を再編集して劇場版にしたもので、本編を再構成することによってかなり徹底してくみあすの話となっている。そのため二年生のしがらみや麗…

ユリイカに寄稿しました。

文芸批評誌『ユリイカ』2016年9月臨時増刊号に寄稿させていただきました。http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=2963 論文のタイトルは「女性アイドルの「ホモソーシャルな欲望」 『アイカツ!』『ラブライブ!』の女同士の絆」です。 アイドルアニ…

ラブライブ!サンシャイン!!シナリオ予想(特に終盤)やるぞ

深夜に突然だがラブライブ!サンシャイン!!のシナリオ予想をやってみようと思う。この半年間そればかり考えてきた気がするが、アニメ放送が一週間後の7月2日に迫ってる今、それをちょっと記事にしてみようと思ったのだ。PV2作の傾向からして、キャラクター…

セオドア・M・ポーター. 藤垣裕子訳『数値と客観性』、みすず書房、2013年

キーワード:数値、客観性、信頼、定量化、没個人性、コミュニケーション、科学者共同体 数値と客観性――科学と社会における信頼の獲得 作者: セオドア・M・ポーター,藤垣裕子 出版社/メーカー: みすず書房 発売日: 2013/09/21 メディア: 単行本 この商品を含…

日本の同性愛ドラマの問題点について

最近、渋谷区のパートナーシップ制度や東小雪の同性結婚が呼び水となり、LGBTブームなるものが到来しているらしい。ビジネスではLGBT産業に金脈が見出され、それを表現するドラマも増えてきた。『偽装の夫婦』ではゲイとレズビアンが登場し、11月からは義理…

アルチュセール. 今村仁司訳『哲学について』(1995)

マルクス主義はさっぱりなのだがアルチュセールは好きになれそうである。妻を殺害して投獄された人という妙な知られ方をする人で、マルクス主義研究の面が強調されることが多い哲学者だが、晩年はマルクス主義からは幾分か離れた彼独自の思想を展開させてい…

ラブライブ!は美しいーおりあそ氏への反論②…劇場版、最高の輝き

一週間開いてしまったが、前回の記事の続きを行おう。前回はおりあそ氏の2期への批判を検討することを通じて、彼の主張の問題点を指摘し、我々肯定論者が2期になにを見ていたのかを確認したが、当記事(アイドルはなぜ魅力的なのか? あるいは、劇場版『ラ…

ラブライブ!は美しいーおりあそ氏への反論①…ラブライブ二期の本当の思想

本記事はおりあそ氏によるラブライブ2期・劇場版に対する批判(アイドルはなぜ魅力的なのか? あるいは、劇場版『ラブライブ!』はなぜ失敗作なのか。 http://oriaso.seesaa.net/article/421134088.html ) への反論である。おりあそ氏と私はちょっとした知り…