なもり作『ゆるゆり』の同作者によるスピンオフ『大室家』の劇場版。その後編。
本作は『ゆるゆり』のごらく部や(さくひま除く)生徒会の面々の活躍が大きく削がれた代わりに、大室櫻子の家族(長女撫子、三女花子)や、その学友の面々にスポットが当てられている。『ゆるゆり』の黄金カップルの片割れの大室櫻子が主役なので、古谷向日葵との絡みを期待することもあろうが、意外にも出番はさして多くない。とはいえ、家族ぐるみの付き合いで当たり前のように大室家に出入りしている描写が、何度かごく自然に挟まれるので、もはや円熟期を通り越したさくひまの絶対的な強さをかえって感じさせてくれる。
本映画は前後編であるが、特に後編が興味深かったところがあったのでレビューする。もちろん前編も面白く、後編ではあまり活躍していないキャラクターの活躍が見られるのがよい。
後編は長女の撫子が恋人とメッセ上で喧嘩して空気が重くなったが、「ごめん」とメッセして仲直りしてめでたし、という典型的なラブストの流れである。しかし、これは原作からしてそうなのだが、そもそもその恋人が学友のめぐみ、藍、美穂の3人のうちの誰なのかがわからない、という根幹が不明な状態である。そんななか恋人候補の3人が、撫子の恋人との喧嘩と同期して揃って気分を悪くしているし、仲直りしたらしたらしたで皆が皆晴れやかな表情をしているので、なんかホラーを見たような気分になる。
なお個人的には、本作に関してファンダムで結構盛り上がる話題であるところの「撫子の恋人は誰か」という問いには、「どうせ解明されることはないやろ」と分かりきってるので冷ややかに見ている。
ヴィトゲンシュタインは次の言葉を残している。
六・五 答えが言い表しえないならば、問いを言い表すこともできない。謎は存在しない。問いが立てられうるのであれば、答えもまた与えられうる。(野矢茂樹訳、『論理哲学論考』、岩波書店)
つまり「問いがちゃんとしていれば答えはちゃんと与えられうる。「答えがない問い」なんてものをお出ししてくるのは、お前の問いがヘタクソだからだ」ということだ。「答えがない問い」なんてものに取り組むのはやめて沈黙すべきなのだ。
とはいえ、見ている自分としても「3人とも撫子の恋人やろ。1人と喧嘩して仲直りしているように見えるのは叙述トリックで、実は同じようなシーンが3回繰り返される」と答えを想定してしまうあたり、「撫子の恋人は誰か」という問いの吸引力というのは感じざるを得ない。
この「どうせ解明されることのない問い」という前提は、しかし最後のところで揺さぶりをかけられる。なんと撫子は櫻子に恋人を教えるというのだ。マジで!?一体誰なんだ...?とかすかな期待を抱いたところで、案の定エンドロールに入り終了する。本作において「答え」は一応用意されているのだが、それは決して視聴者には明かされることがないということなのだろう。さながら『リズと青い鳥』のみぞれにだけ希美が表情を見せるラストを彷彿とさせた。
