錬金術師の隠れ家

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映画感想:『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』

 『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』をみた。去年秋にやっていた『響け!ユーフォニアム』二期の内容を再編集して劇場版にしたもので、本編を再構成することによってかなり徹底してくみあすの話となっている。そのため二年生のしがらみや麗奈と久美子の関係描写はカットされている。その辺のエピソードが好きな人には残念かも知れないが、しかしそれによって、久美子とあすかの関係がより明瞭に見えるようになっている。内容自体は放映版と変わってないのだが、見せる場面がひたすら久美子とあすかのシーンに限定されているため、久美子とあすかが互いに互いの感情をぶつけ合い音を響かせ合う過程が強く印象に残る。
 再編集によって具体的に何が起こったのかというと、久美子とあすかがそれぞれどのような人間関係を抱えているか、それが彼女らの音楽活動にどのような影響を与えているのかが極めてわかりやすくなっているのである。キーは久美子とあすかのそれぞれの肉親(姉と父親)との関係である。
 久美子とあすかの話となっていることは先ほど確認したが、主人公はあくまで久美子である。受験を控えた高校生が担うことになる重責に対してあすかがどう決断するかという物語の中心点が、久美子の視点からみることによって、久美子姉とあすかの姿が、久美子の姉の姿が演奏中にあすかをみた直後フラッシュバックしたり、共通するセリフがあったりすることでだぶって見えるようになっている。しかし直接「あすか先輩って私の姉に似ている」だとか「姉と同じ道を歩んでほしくない」とかセリフで直接示すわけではないところがまた優れていて、映像への信頼とでもいえるものが垣間見られるようだ。先輩は自分の姉と同じく確実に後悔する道を歩もうとしている。それが嫌で、子どもでいいじゃないかと本音をぶつける。こうした麻美子-久美子-あすかのラインが、セリフや映像に無駄のない劇場版の再編成によってより重厚になっているのである。
 あすかと麻美子の姿が久美子の視点から重なるだけでなく、メインキャラクターの肉親であるあすか父と麻美子もまた似たような役割を演じているのがよくわかるようになっている。コンクールなんてどうでもいいと思っていたあすかも、審査員に父がいると知ることで、父に演奏を聴いてもらうことを目的とするようになる。久美子もまた、今まで一度も演奏会に来てくれなかった姉に演奏を聴いてもらいたがるようになる。久美子とあすかは両者ともに音楽を肉親との関係で位置付けるようになるわけだ。麗奈が態度で示すような音楽を純粋目的とする姿勢からは遠ざかるが、そもそも二人が楽器を始める動機が肉親からの影響であったことを踏まえると(これも冒頭にあすかの幼少時代のシーンが新たに加えられることですっと理解できるようになっている)、母親に遠ざけられたり不和を起こしたりで肉親との距離が遠くなった二人の高校生が、音楽を通じて、互いの関係を通じて肉親との距離を少しでも縮めていく、そういう話であることがよく理解できるような構成であった。
 ただこのように話を理解していくと一点だけ不満が残る。コンクール後の久美子と姉の再会のシーンがカットされているのである。確か放映版にはなかった客席に麻美子が姿をあらわすシーンがあったのはよかったが、それで満足したのか久美子が席を外す直後に戻って来てあすかに再会するという体になっている。客席のシーンやあすかとの会話、その後の手紙のシーンである程度久美子と姉の関係の改善という解決は見て取れるが、それでもやや片手落ちの印象が拭えない。私の見立てが大袈裟すぎるのかどうか……

 各シーンの内容や演出は、全体的な編集を除けば、おおむね放映版通りである。しかし元がいいだけに、劇場の音響のよさもあってとても見応えがある。あすかが早朝にユーフォを吹くシーン、職員室での三者面談のシーン、あすか宅の1630以降のシーン、河原でユーフォを吹くシーン、渡り廊下でのダイアログ、愛の告白のシーン、課題曲と自由曲……どれも何度でも見ていられる名シーンである。特に再び注目したいのは光の描写である。マンションのため蛍光灯なり白熱灯なりしか光源がない黄前邸とは異なり、田中邸は吹き通しがよく日がよく差す広い日本家屋である。そのためか、夕陽が差しこまれる時間帯になると、時間の経過とともに二人の心情が段々と彩度を上げて照らし出されることにより、暖色だというのに不安定な感じを醸し出すのである。しかしこの嫌な光も、河原にでていくと一転、消えつつある青空の色と交わることにより、暖色と寒色、さらに藤色がかった柔らかい色を醸し出し、河川敷を優しく彩り上げる。本編ではここで父親の曲『響け!ユーフォ二アム』を吹くのだが、劇場版ではこのシーンは分割され、ラストに演奏シーンがもって来られることとなる。この物語の帰結にふさわしく、優しい音色に優しい風景が調和する、アニメの面目躍如といった名シーンである。
 ただ先ほど音響を褒めたものの、それはテレビと劇場を比較すれば、という話であって、劇場の音響そのものは不完全に思えた。低音はよく鳴り響くのだが、パーカッション、特にシンバルの音がしょぼく聞こえた。今回見にいったのは新宿ピカデリーだったのだが、他の劇場では違ったりするのだろうか、それともソフトの音響設定に問題があるのか。

 総じて、若干不満は残るが、ユーフォという作品のよさを再確認できるとてもよい仕上がりだと思った。ちなみに来場特典はのぞみぞの性愛シーンだった。幕前芝居も二年生だったけれど、そこはなかよし川のいちゃつきがメインであった。